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GameDesign 西部劇TRPG開発日誌

[TRPG]「物語の命題」を読んで。

物語の命題 : 6つのテーマでつくるストーリー講座

大塚英志 著

『鉄腕アトム』『トーマの心臓』『11人いる!』『借りぐらしのアリエッティ』…。まんがやアニメ、映画の名作たちの物語の中には、なぜか必ず共通する要素が発見できる。それら"物語の命題"と言うべき存在を解き明かし、まったく新しい作品としてリメイクしていくワークショップ集。

「BOOKデータベース」より

[目次]

  • 序 「テーマから物語をつくる」という普通の方法
  • 第1章 人造人間に生まれて-「アトムの命題」
  • 第2章 ギムナジウムの転校生-「エーリクの命題」
  • 第3章 水蛭子の語られなかった運命-「百鬼丸の命題」
  • 第4章 私は急いで大人になる-「ジェニーの命題」
  • 第5章 君のためなら「女の子」になってもいいよ-「フロルの命題」
  • 第6章 いつかトトロにさよならを-「アリエッティの命題」

「BOOKデータベース」より


 批評から、物語の「命題(テーマ、プレミス)」を抜き出して、それをワークショップ(練習問題)として提示する構成の本です。



 しかしそのようなぼくの創作論の中でさえ手つかずになっていたのが「テーマ」という問題です。それはぼくの中でどこかでテーマを神聖不可侵なものとして、つまり、「作者」の固有性の拠り処として担保してしまったのかも知れません。
(中略)
本書は、こういう思い込みを思い切って捨ててみることにしたワークショップの記録です。つまりあらかじめ用意された「テーマ」に従って物語る、ということをぼくの学生たちに求めたのです。困ったことに、そして予想通りに、あらかじめ「テーマ」に従って書かれた物語はしかし、かなり「おもしろい」のです。

(中略)本書でぼくが「命題」を引き出すプロセスそのものは「批評」であり、そして「批評」だけを読んで一つの物語をわかった気になるほど愚かなことはないからです。ワークショップに参加した学生には実際に授業で一群の作品に直接触れた上で「命題」を示し、それに従って作品化をしてもらいました。そのプロセスはどうぞさぼらないでいただきたい、と思います。

 「キャラクターメーカー」「ストーリーメーカー」は、物語なりキャラクターを、構成・構造としてそぎ落として、特殊から一般への科学的な見方のアプローチをとられていましたが、この本は、そういう書き方はしていません。

 この本では、命題という普遍から単独にゆだねて、その単独性から、普遍の地平を渡る道しるべとなる創作論を採っています。
 僕は、コミュニケーションの社会学で扱われたような単独性と普遍性、作家性への応援として受け取っていいと思いました。

 人間は、既にある技術や道具があることも知らないで、一種の知的体系を作ろうとします。

 なんらかの物づくりのプロが取りそろえる道具の体系に対して、アマチュアや素人がそういった道具自体や道具体系の存在も知らないで、自分で揃えた道具の知的体系を作り出していることがあります。

 普遍的な命題を扱うために、一般的な体系を述べてきたとしても、物語のノウハウを道具的体系として述べたところで、単独性と普遍性は失われないと力説されています。
 文学的な単独性と普遍性、科学的合理的な特殊性と一般性のあいだに、断絶があって、そこをつなぎ渡る橋があると信じるとする、手のひらを返したような考えに希望と好感が持てました。

 物語から批評を通して、命題を見いだすプロセス、そこに単独性が生じているのです。
 浮世絵の歌麿の女性を描く微妙で繊細な艶っぽい曲線美が群を抜いているように、雲形定規では説明できない単独性を礼賛することができるのです。


 「キャラクターメーカー」の、「誰にでも創れる論」の限界がないように錯覚させる手品の種明かしとか、手品の種を知っていたとしても手品師にはなれないという感想とは違って、

 誰かには創れるというしっかりした根拠を示している

 と思いました。

 TRPGなら、なぜ、自分が作成していない、他人のものであるキャラクターを交代できないのかというと、ロールプレイにプレイヤーの個性の要点があるからと考えられるとしか思えません。
 ロールプレイには、Second-guessing(憶測しなおすこと)があるから、単独性が発揮されているのです。単なるペルソナではないメカニズム、一種の作家性が備わっているからだと僕は思います。


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